日本血栓止血学会学術推進委員会 (SPC) 2017 SPCシンポジウム演題募集のご案内


日本血栓止血学会 会員の皆様へ

第39回日本血栓止血学会学術集会(2017年6月8日-6月10日、小嶋哲人 会長、名古屋)では、6月8日の午後にSPCシンポジウムを開催いたします。今回はSPC委員会指定の4テーマで実施します。SPCシンポジウムでの発表を希望される方は、先ず、演者、演題名、抄録などを一般演題としてオンライン登録してください。発表形式選択欄では希望のSPCシンポジウムテーマをお選びください。また、同時に、SPCシンポジウムでの発表を希望する旨を学会事務局(headquarters@www.jsth.org)まで、選定テーマ、演者、演題名、登録番号、抄録をe-mailでご連絡下さい。確認のためにFAX(03-6912-2896)でもお送り下さい。座長が中心となり各テーマに相応しい演題を採用させていただきます。

なお、採択された演題は、英文・字数(半角)2940字以内で抄録を作成し、学会事務局 (headquarters@www.jsth.org)までお送り下さい。採用されなかった演題は、一般演題としてプログラム委員会で取り扱います。不採用の場合の発表形式は、口演発表、ポスター発表、口演・ポスターの両方の何れかを選んでUMINで登録をお願い致します。

奮って応募くださるようお願い申し上げます。

SPC委員会
委員長 一瀬 白帝

2017 SPCシンポジウムのテーマ

1. 癌治療における凝固線溶亢進の病態と管理(癌と血栓部会) ̶Pathophysiological assessment of hyper-coagulability and hyper-fibrinolysis in cancer patient, and management of venous thromboembolism with malignant tumor̶
2. 組織リモデリングにおける線溶系の役割(線溶とその制御部会) ̶The role of fibrinolysis system in the tissue remodeling̶
3. 分子標的抗血栓薬の経験による血栓形成メカニズムの統合的理解(抗血栓療法部会) ̶Integrated understanding of thrombus formation based upon the experiences with various molecular targeting antithrombotic agents̶
4. 次世代抗凝固薬の可能性を血液凝固XI、XII因子に求めて―動物モデルからの展望―(動物モデル部会) ̶Factor XI/XII and animal models for development of next generation anti-coagulant̶

各シンポジウム概要

1. 癌治療における凝固線溶亢進の病態と管理̶Pathophysiological assessment of hyper-coagulability and hyper-fibrinolysis in cancer patient, and management of venous thromboembolism with malignant tumor̶
座長:保田知生(公益財団法人がん研究会有明病院医療安全管理部)
   畑 泰司(大阪大学大学院医学研究科外科学講座消化器外科)

テーマの目的と内容:
癌治療における凝固線溶亢進の病態を明らかとし、臨床における管理方法を検討する
癌患者は静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)を発生しやすく、易出血性も同時に存在することが諸家により報告されている。癌組織の存在により凝固亢進と線溶亢進状態が併存しており、主疾患の治療を進める上で様々な注意が必要である。近年生活の欧米化もあり、本邦においても静脈血栓症の頻度は増加しつつある。癌患者は手術、化学療法、放射線治療などの主治療を受けるばかりでなく、摂食摂水不良による脱水状態、血管内カテーテル(CVC&PIC)の留置、安静なども存在することがあり、静脈血栓症合併のリスクはさらに高まる。
癌患者の治療は近年複合化を増しており、複数のVTE危険因子が治療中に複数関連することが多く、年々リスクの増加を実感する。手術において、切除が治癒切除であるのか、癌が遺残している場合でどのくらいVTE頻度が異なるのか。発生部位や癌腫、病理組織の違いでVTEの併発率がことなるのか。抗がん剤の中には血栓リスクの高いものがあるが、VTE併発状態で抗凝固療法を行っていれば安全に使用できるのか。CVCとPICCでどの程度VTEリスクが異なるのかなど、欧米では比較的解析されて公表されているが、本邦ではまだ十分に解明されていない。また癌患者は出血を来しやすいが、出血の主原因と考えられる線溶能の亢進は十分に解明されていない。癌患者の転移浸潤に線溶(細胞性線溶)が関与していることも指摘されているが、治療中に線溶をコントロールする方法は解明されていないばかりか、線溶亢進と線溶能低下の指標として簡便で臨床使用可能な検体検査法も今のところ開発されていない。
凝固亢進と線溶亢進にどのように対応し管理するのがよいのか、現在の本邦の予防の現状を報告し、これまでの報告から病態生理と病理学的検討を行い、今後の癌と血栓症の臨床研究のあり方について討論する。

2. 組織リモデリングにおける線溶系の役割̶The role of fibrinolysis system in the tissue remodeling̶
座長:岡田清孝(近畿大学医学部基礎医学部門)
   鈴木優子(浜松医科大学医生理学講座)

テーマの目的と内容:
線溶系因子は血管内に形成された血栓の溶解のみならず、細胞表面に存在する受容体や特異的結合タンパク質を介して結合し、細胞周囲のタンパク質分解や細胞機能の制御に関与している。このような細胞や組織レベルでの線溶の機能は組織線溶と呼称され、血管新生、創傷治癒、神経変性、がん細胞の増殖・浸潤・転移などの様々な生命現象に関与している。
本SPCシンポジウムでは、以下の4つのトピックスを取り上げて関連分野の最新の知見を提供し、活発な議論を展開することを目的としている。
講演1では、ヒトPAI-1欠損症例より樹立されたiPS細胞から分化誘導したPAI-1欠損血管内皮細胞を用いて、PAI-1の血管新生ならびに内皮間葉移行における新たな役割を紹介する。
講演2では、プラスミン活性阻害因子であるα2-アンチプラスミン(α2-プラスミンインヒビター)が、皮膚、肺、腎臓などの組織障害後の線維化の制御に重要であることを、その遺伝子欠損マウスや培養細胞を用いて証明した実験結果について報告する。
講演3では、線溶酵素阻害剤を用いて、部分肝切除後の肝再生に及ぼす影響を細胞周期の制御の観点から追究し、plasminやplasmin受容体を介した細胞線溶の肝再生における役割について紹介する。
講演4では、骨組織の創傷治癒すなわち骨折後の骨修復/骨化過程における線溶系の障害による仮骨形成・異所性骨化、血管形成への影響とそのメカニズムに関する新たな知見を紹介する。
これらの4つのトピックスについて議論することにより、基礎と応用を結び付ける線溶研究の新しい方向性や可能性についても考える。また、上記4課題に関連した独創性の高い線溶研究を一般演題から採択し、本学会の線溶分野における研究の発展につなげていく。

3. 分子標的抗血栓薬の経験による血栓形成メカニズムの統合的理解̶Integrated understanding of thrombus formation based upon the experiences with various molecular targeting antithrombotic agents̶
座長:山崎昌子(東京女子医科大学医学部神経内科学)
   後藤信哉(東海大学医学部内科学系循環器内科学)

テーマの目的と内容:
血栓形成は生命現象として比較的単純である。しかし、生体構成分子から生命現象への構成論的理解は精緻ではない。分子標的薬として直接トロンビン阻害薬や直接活性化第X因子阻害薬が日常臨床で用いられるが、両者の差異は不明である。クロピドグレル、プラスグレルとticagrelor、cangrelorはP2Y12阻害薬であるが各薬剤の差異も構成論的には理解されていない。血液凝固の増幅系を形成する第XI因子(FXI)の阻害薬は出血リスクの低い抗凝固薬として期待され、低分子化合物、抗体や核酸医薬品が開発段階にある。肝臓のFXI mRNAの発現を特異的に低下させるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、人工膝関節置換術を施行する患者のFXI濃度と術後静脈血栓塞栓症を低下させた。しかし、FXI濃度と血栓イベント発症率の関係は不明である。plasminogen activator inhibitor-1、thrombin activatable fibrinolysis inhibitorなど線溶系の分子標的薬も、動物実験にて線溶活性の増強、血栓予防などの効果を示した。単一分子に注目すれば、その分子と血栓イベントの間の大まかな関係は理解された。しかし、これらの統合的理解には至っていない。
臨床症候を呈する血栓の形成とその制御には、血小板、凝固、線溶のみならず、内皮細胞、白血球、間葉系細胞、血流などが寄与する。血栓形成に直接寄与する分子だけではなく、基盤となる全身の血管内皮機能障害、動脈硬化の発生・進展に関与する生体構成分子も、新しい抗血栓薬の標的となる可能性がある。高血圧、糖尿病、脂質異常症などの動脈硬化危険因子の是正により血栓性疾患の発症率は世界的に低下している。運動習慣も心筋梗塞などの発症を明確に低下させるが、その分子機構は不明である。禁煙と運動習慣が一般化した世界にて、出血イベントが必発する抗血栓療法を必要とする小集団弁別を目指した「個別化医療」が必須である。複雑な血栓形成機序を統合的に理解して、個人の分子と環境に応じた「個別化医療」の確立のため、本シンポジウムでは、個別の分子標的薬の効果に関する知見を統合して構成論的な抗血栓介入の未来について考えたい。

4. 次世代抗凝固薬の可能性を血液凝固XI、XII因子に求めて―動物モデルからの展望― ̶Factor XI/XII and animal models for development of next generation anti-coagulant̶
座長:山下 篤(宮崎大学医学部病理学講座)
   梅村和夫(浜松医科大学薬理学講座)

テーマの目的と内容:
ワルファリンによる静脈血栓塞栓症予防は、PT-INRを指標として確立されてきたが、出血性副作用、薬剤・食物との相互作用、狭い治療域などの制限があった。トロンビンや活性化第X因子を標的とした経口抗凝固薬が上記欠点を補う目的で開発され、血栓塞栓症の予防薬として使用されている。しかしながら、1年間におよそ数%の出血性合併症やモニタリングが難しいという課題がある。
血栓塞栓症は大きく成長した血栓(発症に至る静脈血栓は動脈血栓と比べてはるかに大きい)が剝離し末梢の血管を閉塞することで発症する。そのため止血機構と血栓の成長機序の違いが明らかとなれば、出血性合併症の少ない抗凝固薬の開発に繋がることが予想される。
血液凝固接触相の因子である第XII因子(FXII)欠損症の出血リスクはなく、第XI因子(FXI)欠損症の出血はまれである。FXI欠損症例では血栓塞栓症の発症頻度が少ないことが報告されており、動物モデルにおいていずれの因子も血栓の成長過程に重要であることが示唆されている。このような背景を踏まえ、FXII、FXI阻害薬は次世代の抗凝固薬として注目されており、とくにFXI阻害薬は核酸医薬品による臨床研究が報告されている。一方、FXIIはFXIの活性化とともにカリクレイン―キニン系を介して炎症反応、線溶反応と関連する。またFXI欠乏症では線溶活性の高い尿路系や口腔の外傷や手術などで出血傾向を示す場合があり、動物モデルによる生体での分子機能の理解や、阻害薬投与による主作用、副作用を観察することが重要と考えられる。
本シンポジウムでは、モデル動物による視点からFXI、FXIIの病態への関与の違いや、それら阻害薬の開発における抗血栓効果や出血傾向について議論することを目的とし、次世代の抗凝固薬の理解や開発へつながることを期待したい。